目次
1.東京と大阪に同時にいるドラえもん
「シュレディンガーの猫」は、量子力学における有名なパラドックスの一つである。
量子の世界は、私たちの常識では考えられないことが起きている。
相反する出来事が同時に存在することが出来てしまうということである。
例えば、1つの粒子が異なる場所に同時に存在することも可能である。
同時という言葉を使っているが、どこの場所にあるか確定していないという言い方が正しい。
ドラえもんが東京と大阪に不確定に存在しているようなものである。
とても不思議な現象である。
これらは、確率で表される。
確定はしていないので存在しうる場所を確率で示すのである。
ところがこの確率的に存在しているドラえもんを東京で目撃した瞬間、大阪のドラえもんは消滅し、東京のドラえもんだけになる。
実際は、消滅している訳ではなく、東京と大阪の両方に確率的に存在していたドラえもんが東京のドラえもんに確定されるのである。
なぜ、確率的に存在しているのか、そしてなぜ目撃した瞬間、一か所に確定するのか、その理由を知っているものは誰もいない。
でも、その不思議な現象を受け入れることでミクロの世界の出来事は説明できる。
高校の物理学の教科書では、原子核の周りを回っている電子は、太陽の周りを回っている惑星のようなイメージではなく、雲のような図で示されていたと思う。
これは電子の場所が確定していないため、確率的に存在している領域を雲で表しているのである。
2.生きている猫と死んでいる猫が同時に存在する「シュレディンガーの猫」
このような確率的な振る舞いは、場所だけではない。
原子の中には、不安定な原子核を持つものがある。
不安定な原子核は、崩壊しやすい。
崩壊とは、安定した別な複数の原子核に変化することである。
例えば、ラジウムの原子核は、1時間後に崩壊する確率は50%ある。
つまり、1時間後にラジウムの原子核が崩壊している状態と崩壊していない状態の2つの状態の両方が存在している。
私たちの目には見えないくらい小さい世界の話だから、そんなことがあっても不思議ではないと思うだろう。
しかし、この不思議の話が私たちが目にいる大きさでも起きうるという思考実験がシュレディンガーの猫である。
外からは中身が見えない箱を用意する。
この箱の中には、以下のものが入れられている。
①ラジウム
②ガイガーカウンター
③青酸ガス発生装置
④猫
シュレディンガーの猫
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典より引用(著者Dhatfield)
ラジウムは、1時間後に崩壊する確率が50%。
崩壊した場合、放射線を発し、その放射線は、ガイガーカウンターが検出する。
放射線を検出すると青酸ガス発生装置にスイッチが入り、猫は死んでしまうというものであ。
ここで1時間後にラジウムが崩壊している状態と崩壊していない状態の2つの状態が確率的に存在している。
これはすなわち、猫が死んでいる状態と、生きている状態の2つが不確定に存在しているということである。
私たちが箱を開けた瞬間、死んでいる猫または生きている猫のどちらかに確定するということを意味している。
これは、受け入れがたいことだろう。
だからパラドックスなのである。
ミクロの世界の出来事がマクロの世界に影響を及ぼす可能性を示す思考実験である。
私たちは、この不思議な話をどう理解すればよいのだろうか。
3.箱を開けた瞬間、猫は生死のどちらかに収束する?(コペンハーゲン解釈)
このようなことは、とても理解しがたいが、無理やり理解するため、昔の物理学者は、東京と大阪に不確定にいるドラえもんは、目撃した瞬間、東京か大阪のどちらかに収束するという落としどころで決着させた。
そしてこれ以上、考えることを止めたのである。
なぜ収束するのかは考えない。
考えてはいけない。
これもおかしな話ではあるが、こう考えないと先に進めないのである。
これは、コペンハーゲン解釈と呼ばれる。
現在の物理学の教科書ではこのように説明している。
シュレディンガーの猫の話に戻ると「箱を開けた瞬間、死んでいる猫、生きている猫の二つの状態から、どちらかに収束する」ということになる。
4.猫が生きている宇宙と死んでいる宇宙の2つに分かれる?(パラレルワールド説)
別な仮説を唱える人もいる。
シュレディンガーの猫は、死んでいるの猫の世界と生きているの猫の世界がもともと存在していたというものである。
私たちが箱を開けた瞬間、死んでいるの猫の世界と生きているの猫の世界のどちらに自分がいるかが分かるというものである。
「パラレルワールド説」または「エヴェレットの多世界解釈」と呼ばれる。
コペンハーゲン解釈に比べるとまだ納得感がある。
しかし、この仮説は、無限に近い並行宇宙(パラレルワールド)が存在することになる。
5.情報ネットワークに例えて見る
ここから先は、私の解釈である。(専門家ではないので正しくないかもしれない)
パソコンなどがインターネットで接続されている情報ネットワークに例えて見る。
ネットワーク上のパソコンなどの機器は、オブジェクトと呼ぶことにする。
シュレディンガーの猫の場合、オブジェクトは、次のものになる。
①ラジウム
②ガイガーカウンター
③青酸ガス発生装置
④猫
⑤観測者
ネットワーク図で表すと次の通りである。
円は、オブジェクトを表す。
オブジェクトとオブジェクトの間の線は、ネットワークを表す。
オブジェクトからオブジェクトへネットワークを通して情報が伝わる。
オブジェクトは、状態を持つ。
①ラジウムであれば、(崩壊、崩壊していない)の2つの状態を持つ。
②ガイガーカウンターは、放射線を(検出、検出していない)の2つの状態を持つ。
③青酸ガス発生装置は、青酸ガスを(発生、発生していない)の2つの状態を持つ。
④猫は、(死んでいる、生きている)の2つの状態を持つ。
⑤観測者は、(死んでいる猫を観ている、生きている猫を観ている、生死不明)の3つの状態を持つ。
これらの状態は、ネットワークで繋がれたオブジェクトから情報が伝わることで変化する。
①ラジウムは、(崩壊していない→崩壊)に状態が変化することで放射線を発生させる。
②この放射線という情報により、ガイガーカウンターは、放射線を(検出していない→検出している)という状態に変化する。
③ガイガーカウンターからの情報(放射線を検出)により、青酸ガス発生装置は、青酸ガスを(発生していない→発生)という状態に変化する。
④青酸ガス発生装置の青酸ガス発生という情報により、猫は、(生きている→死んでいる)という状態に変化する。
⑤観測者は、箱を受けることで猫の情報を受け取り、(生死不明→猫が死んでいる)という状態に変化する。
これは、箱を開けるまでは、箱の中は、次の二つが状態が存在し、確定していないともいえる。
Aの状態
①ラジウム(崩壊していない)
②ガイガーカウンター(放射線検出していない)
③青酸ガス発生装置(青酸ガス発生していない)
④猫は、(生きている)
Bの状態
①ラジウム(崩壊)
②ガイガーカウンター(放射線検出)
③青酸ガス発生装置(青酸ガス発生)
④猫は、(死んでいる)
ここで箱を「閉じたネットワーク」と呼ぶことにする。
6.ネットワーク宇宙仮説
「閉じたネットワークは、外のネットワークから見ると閉じたネットワークの状態は、相反する複数存在していても構わない」のではないだろうか。
また、ラジウムが崩壊したという情報が伝わった範囲は、伝わっていない範囲と区別して閉じたネットワークと定義する。
この時、観測している人がどのネットワークに属しているかによって状態の見え方は、異なってくる。
箱という閉じたネットワークの外にいる場合、箱を開けるので猫は死んでいるのかは分からない。
しかし、ここで研究室の外の人から見たらどうだろうか。
観測者は、箱を開けているので猫の生死は決まっている。
しかし、研究室の外の人は、研究室のドアを開けないかぎり、猫の状態は確定していないだろう。
そして研究室内の観測者は、(死んだ猫を観測、生きた猫を観測)の2つの状態を持っている。
この場合、研究室内が閉じたネットワークである。
猫の生死は、研究棟内に伝わったとする。
しかし、研究棟の外を歩いている一般の人には、猫の生死は伝わらないとする。
そうすると猫の生死の2つの状態は、研究棟という閉じたネットワークのみに留まるということになる。
「エヴェレットの多世界解釈(パラレルワールド説)」では、猫が生きている宇宙と猫が死んでいる宇宙の2つを仮定しないといけない。
しかし、上記の場合は、閉じたネットワークのみ、複数の状態を持つことを許せばよい。
この考え方を「ネットワーク宇宙仮説」と呼ぶことにする。
7.宇宙全体がシュレディンガーの箱だったら・・・
ミクロの世界では、閉じたネットワークはたくさん存在するだろう。
マクロの世界ではどうだろう。
一番、大きな閉じたネットワークは、宇宙全体ではないだろうか。
ビックバンの始まりは、宇宙は1点だった。
とすれば、情報の伝達は全宇宙に一瞬で伝わったに違いない。
宇宙全体がシュレディンガーの箱なのである。
宇宙という箱の外からは、宇宙は無限の状態を持っている可能性があるように見えるだろう。
私たちは、無限の可能性がある宇宙の一つに住んでいるのかもしれない。
そして私たちの宇宙の中も数多くの閉じたネットワークを持っており、網の目のように複雑に繋がっているのである。
2020年10月25日著