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フィリップ・K・ディックの最高傑作SF小説「ユービック」最後のオチの解釈

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ユービック

目次

1.導入部分のあらすじ(ネタバレなし)

「ユービック」は、フィリップ・K・ディックの作品の中で最も人気があり、映画ブレードランナーの原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」と共にディックの代表作である。

主な登場人物は、超能力者の能力を無効化できる反能力者たちである。

反能力者たちは、不活性者と呼ばれている。

彼らは、ランシター合弁会社に所属しており、セキャリティー確保のために超能力者の能力を不活性にする仕事をしている。

主人公は、超能力測定技師であるジョー・チップである。

この近未来の世界では、冷凍睡眠された死者との対話が可能になっている。

厳密には、半生命の状態である。

半生命の人の脳波を読み取る機械で対話ができる。

残された数週間の時間だけ覚醒されて対話ができるのである。

ランシター社長の妻も冷凍睡眠されている。

そして所々にユービックなる商品の謎のCMが登場する。

この半生命の対話とユービックがこの小説の後半でキーとなってくる。

さて物語の核心と最後のオチの解釈について解説したいと思う。

2.物語の核心(ここからネタバレ)

顧客の依頼でランシターとジョー・チップたちは、月に行くが爆弾により、ランシターは死亡する。(半生命状態)

ランシターは、ジョー・チップたちにより冷凍睡眠させられる。

ここからジョー・チップたちに奇妙なことが起きる。

世界のあらゆるものが退行していく。

通貨が古銭になったり、機械が旧式になったり。

通貨の顔の絵がランシターになっていたり。

最終的には1939年の時代まで退行するのである。

ジョー・チップは、トイレで「ワシは生きてる、君らは死んでる」という落書きを発見する。

実は、爆弾で死亡したのは、ランシターではなく、ジョー・チップたちの方だった。

ジョー・チップたちは、冷凍睡眠させられて仮想世界の中にいるのだった。

この仮想世界には、彼らの命を狙う、同じく冷凍睡眠させられたジョリー少年がいた。

この仮想世界を作り出したのは、ジョリー少年だった。

ジョー・チップ以外は、ジョリー少年に殺されてしまう。

殺すことによって生命エネルギーを吸い取っていたのだった。

ジョー・チップも殺されかけるが、現実世界からコンタクトを取ったランシターが持ってきたユービックのスプレーにより、死を免れた。

このスプレーは、退行したものをもとに戻す力がある。

実は、冷凍睡眠させられているランシター社長の妻たちがジョリー少年に対抗するために作ったものだった。

3.最後の章

最終章は、唐突に次の文章から始まる。

「私は、ユービックだ。この宇宙が始まる前から私は在った。私は多くの太陽を創った。

私は言葉であり、私の名は決して口にされず、誰も知らない。」(この言い回しは、聖書から来ている。つまりユービックは神に例えられている)

そしてランシターが冷凍睡眠させられた妻に面会しょうとする場面になる。

係員にチップを渡すがランシターは、通貨の顔の絵がジョー・チップになっていることに気がつく。(ランシターの時と同じように)

ユービックの物語はここで終わる。

4.考えられる結末のパターン

最後の章を読み終わって結局どうなったのか混乱する人は多い。

結局、どうなったのだろうか。

この最後の章については、三つのパターンが考えられる。

パターン1

現実世界ではジョー・チップたちは生きており、ランシターのみ死亡

パターン2

現実世界ではジョー・チップたちは死亡し、ランシターだけ生きている

パターン3

現実世界では月で全員、死亡している

5.最も説明がつく結末及び解釈

パターン1の「現実世界ではチップたちは生きており、ランシターのみ死亡」は、物語の途中、ランシターにより否定されているのでこれはない。

最後の章でランシターは、通貨の顔の絵がジョー・チップになっていることに気がつく。

これは、ランシターもジョー・チップと同じく冷凍睡眠されているのではないか、つまり死亡しているのではないかという推測が立つ。

そう考えるとパターン3の「現実世界では月で全員、死亡ている」が考えられるかもしれない。

ここで最後の章の冒頭の「私は、ユービックだ。この宇宙が始まる前から私は在った。私は多くの太陽を創った」の文章についてもその意味についても考える必要がある。

この文章は、ランシターがいる世界について述べているのだろう。

ランシターがいる世界は、ジョリー少年が創ったものではなくユービックが創ったものだ。

スケールは、ジョリー少年が創った仮想世界よりも遥かに大きく宇宙全体を示している。

仮想世界を創るには、大きなエネルギーが必要であるとジョリー少年が述べている。

宇宙全体となるとジョー・チップ1人の人間では無理だろう。

創造主(神)のような存在が必要なにる。

ということは考えられることは一つ。

現実世界は、創造主ユービックによって創られたということだ。

通貨の顔の絵をジョー・チップに変えることは、ユービックであれば可能だろう。

そうするとパターン1の「現実世界ではジョー・チップたちは死亡し、ランシターだけ生きている」しか考えられない。

この物語の世界は、実は二重構造になっており入れ子のようになっている。

一つは、冷凍睡眠させられた半生命の人たちの仮想世界。

この世界は、ジョリー少年によって創られた。

そしてもう一つは、現実世界。

こちらは、ユービックによって創られたものだ。

「ユービック」という小説は、とてつもなくスケールが大きい物語であるということがわかる。

6.ディックが伝えたかった物語

ディックがこの小説で伝えたかった物語は、現実世界は仮想世界と同じで誰かによって創られたものであるということだ。

創られたという点では現実世界と仮想世界に違いはない。

現実世界はユービックにより創られた話をメインにしてしまうと読者はついて来れない。

そこで小規模の冷凍睡眠の世界の話を持ってきて仮想世界とはどういうものかを説明した上で、最後の章で最も伝えたかったことを付け足しのように短く文章に表したのだろう。

分かる人には分かるように。

とても見事である。

7.まとめ

ところで仮想世界という言葉は、この小説には出てこない。

私が分かりやすく説明するために使っているだけである。

この小説は1969年の発行である。(執筆は1966年である)

この時代はまだインターネットやVR(仮想現実)※は存在しない。

※研究段階のものは、1960年代にあった

私が知る限り、仮想世界という言葉が広まったのは、1980年代である。

当時、仮想現実、仮想世界のイメージが湧かず、理解に苦しんだ記憶がある。

まだ仮想世界という言葉がなかった時代にディックは考え出した。

ディックの先見性のある創造力は素晴らしい。

あまりにも先を行き過ぎて当時、この小説は難解だっただろう。

小説が発表された当時は斬新であったに違いない。

現在の人たちであれば、映画「マトリックス」のようなストーリーとして容易に受け入れられるだろう。

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